こんにちは。
外国人移民の支援や外国人人材紹介業をしている、みやまと申します。
今回は、私が理事長を務めるNPOリンクトゥミャンマーで2022年2月20日に開催したオンラインワークショップ「外国人と共に生きるために何ができるか~多文化共生ワークショップ~」のテーマと、私が1年間に数百回、日本で生きる外国人のお悩みに接していること、また人材紹介業を営み、外国人を雇用される企業の経営者や人事担当者の方々からのお悩みを聞く立場から見て、昨今の外国人問題について思うことを、つらつらと書かせていただきます。
「長時間労働は悪なのか?」
最近とみに、日本では「働き方」にこだわる日本政府の姿勢が見受けられます。
「ジョブ型」
「週休3日制」
「働きがいも、生きがいも」
「過労死レベルの長時間労働はNG」
みたいなキャッチフレーズで展開されています。
「余裕のある働き方」推奨運動です。
残業代を多く出したくない、社会保険代を多く負担したくない企業側の意図で、だらだら働くサラリーマンの人件費や社会保険料を何とかカットしたいと思って立ち上げた政策に見えます。
加えて、人口減少が著しい日本で、経済減退の元となる人口減少を何とか食い止めたい、できれば薄い希望ですが人口増に転じるまで日本人の出生率を上げたいがために、夫婦共働きで夫婦ともガンガン外出するような働き方では、ロクに子育て時間が取れないから、子どもを産むための余暇創出のために働く時間を減らそう運動を、日本政府が展開しているのでしょう。
どちらも、間違っている意図ではないです。
日本を実力主義で働く社会にし、かつ会社での利益を確保できるようにして、余暇を楽しみましょうということです。
この理屈はわかるのですが、一定数ですが、残業代がないと生活水準が保てないという仕事に就いている方々が、存在しているのも事実です。
もし職場で長時間働かなければこなせない仕事があって、ご本人が長時間働くことを希望する場合であっても、従業員が元気ハツラツで貯金もしたいし会社も労働力をもとめているし、という場合でも、1日8時間労働を基本とするのが、日本の労働制度です。
ちなみに、経営者は役員報酬という給与システムで、時間数での働き方になっておりませんので、何時間働いても法規制に引っ掛かりません。
日本の伝統的な働き方ですと、上司が帰宅せずに部下は帰れない、だから残業するなどという事態に対する劇薬的措置「残業するな運動(=働き方改革)」が、日本全国で講じられているわけですが、
「働く時間数くらいは自主的に選べないのか?」
と思ったりします。長く働きたい方は長く働いて何が悪いのか?
過労死が生じるのは、「働きたくない方に無理して長時間労働をさせる」
という実態があるからではないでしょうか?
その現場の管理者に問いたい、なぜ部下が「無理しすぎている」状況を読めないのか?
読めなさすぎでないか?
そういう管理者がいることで、日本全国でゆったり~まったり~働こうという風土が育ってきてしまっています。
「働きたい方が長時間働くのは罪なのか? では世のベンチャー企業創設者で、1日16時間働くのは法律的に問題ないという矛盾を、どのようにかみ砕いて、矛盾がないと説明するのか?」
と思うわけです。
残業時間を制限すると、来日したくなくなる外国人はいる
一方で、日本に来る技能実習生など外国人は、日本の労働制度をどのように見ているのでしょう。
日本には、国内の最低賃金の格差があります。最低賃金の格差について、技能実習生は非常に敏感です。
同じ労働時間働いても、企業の場所によって賃金の格差が出てしまうからです。
そこで上記の企業の「生産性向上」によって賃金を上げましょうという運動につながります。
この「生産性向上」は、会社での業務効率化を図り、無駄な経費(人件費や残業代も、もちろん含まれる)を削減し、営業利益を上げ、社員の給与に利益を還元させる仕組みを指しています。
机上では非常に美しい論理なのですが、現実に落とし込もうとすると、そう簡単ではないのです。なぜなら、業歴の長い会社、浅い会社、社員数が多い会社、少ない会社、資本力が多い会社、または資本力の少ない会社と、実に様々な会社があるからです。企業の環境によって、どこまで生産性向上を図れるかという課題が出てきます。
例えば私がお付き合いしている製造業の企業経営者から、このような話をお聞きしました。
「なんでも機械化・省人化して済む話ではない」
もちろん企業の生産性向上のために機械化はしなければならないのですが、中小企業が扱う小ロットの生産現場で、機械化だけでは対応できない、細かな手作業が必要な場面はやはり存在する、という話です。
企業を経営している方々を見ていますと、私も零細企業経営者ですが、人件費について「こんなに払う必要ない」という場面はありつつも、従業員の士気向上や企業の長期経営の観点から、ある程度の余分な人件費を払う場合もあるのです。
ですから一概に「生産性向上ッ!」と声高に言ったところで、現実問題、簡単に生産性を上げるのは難しいのです。私は企業の生産性向上を否定しているのではありません。大企業のように、すぐにステキな人材が来るわけではない中小零細企業にとって、簡単にジョブ型なんかにしてしまうと、仕事をしてくれなくなる人材も存在するのではないでしょうか、という現実的な問いをここで書き留めている次第です。
こういうことを言うと、出来の悪い経営者だからこういう書き方をするのだとお思いの読者もいらっしゃるだろうし、それはそうかもしれません。だが、生産性向上を目指してほしいと言う日本政府の役人が、一度でも、地方の中小企業を企業経営したことがあるのかね、と申し上げたいのです。
経営したことがあれば、長時間働かずに大企業に勝つための事業実績は、知恵をつかってあげたまえ、ってどうやってやるんでしょうかね? 知恵があっても私のような並の人間は、知恵を活かして、かつ長時間働くことで自身の小会社をなんとか、なんとか10年間動かしてきました、という実態がございます。
そして技能実習生が勤務する企業は、地方の中小零細企業が非常に多く、省人化や機械化が進んでいないから技能実習生が必要となっている現場があります。
技能実習生の来日目的は出稼ぎですから、ご自身のご家族のために1円でも多く稼ぎ、母国でその資金をもとに成功することを夢見ています。彼らに、残業代カットカットと言い続ければ、手取り給与は減ります。
残業がないクリーンな労基法を守った状態で働いていると、人材は地方の企業に定着したくなくなります。だから地方の企業は残業代で技能実習生の給与を上げて、技能実習の3年、5年という期限後も引き続き働いてもらうようにしている実態があります。
そして、技能実習生自身は、残業があることが、非常にハッピーなのだ、という方々が多いのです!!
つまり日本の「働き方改革」によって、技能実習生の期待に応えられない給与しか支給できず、今の給与制度であると、結果として移民から日本が就業先に選ばれなくなる可能性は否定できないのです。
そもそも技能実習生の給与が最低賃金をベースにして成り立っており、残業代も成果ベースでなく時間給で支払われるため、「残業をしたい」という技能実習生は後を絶ちません。残業が少ない技能実習生の現場では、逃げ出す実習生も出てくるのです。もちろん技能実習生の逃走理由はこれだけではありませんが、技能実習制度、および技能実習生受け入れ先企業に「働き方改革」や「生産性向上」はどこまで適切と言えるのでしょうか?
「確かにウチは、外国人が残業します。でもみんな残業したい、したいて言うし、18時でしまいや! 言うても(実習生は)話を聞かないんよ。こないだ労基(労働基準監督署)が会社に来てな、おたくの技能実習生は過労死レベルで残業しとるて。でも、ワシが夕方、工場から家に帰ったあとに、実習生が勝手に工場にきて、勝手に夜に仕事始めるで!! その現場が映っている工場のカメラを、労基に回収されたで!! ワシ、もう何も言えないんよ」
実際に私がお聞きした中小企業経営者のセリフです。
この経営者に問題がないとは言いませんが、この状態を、「外国人を管理できない、ダメな経営者で運営されている会社」と一刀両断するだけで良いのでしょうか?
もしくは「過労死レベルで外国人に仕事をさせる悪党経営者」と断定されるのでしょうか?
残業をしたい外国人はたくさんいます。そして、残業をしたくない日本人もたくさんいます。日本人と外国人の労働力で、日本社会を動かすとしたら、「残業」に関する双方の需要と供給は一致しています。日本人が働かない分、外国人が働きたいのです。
技能実習制度イコール悪なのか?
技能実習制度は、地方の、最低賃金の低い、すでに日本人従業員がいなくなった企業にとって人材獲得に有効な制度です。昨今人権団体や若者が、奴隷制度うんぬんと言うのは、確かに人権無視をして技能実習生にかわいそうな思いをさせる技能実習生受け入れ企業や監理団体の人々もいるので、間違っていなくもないのです。
が、それは「日本の地方創生の失敗をあまりにも知らない」「外国人には善人もいる。だが、いい加減なことをして日本人経営者を困らせている外国人問題が多数あることを知らない」人々によって、技能実習制度が批判されているのではないか? と感じなくもありません。
少なくとも3年間は転職ができない技能実習制度では、人権侵害行為があったときに人材が逃げにくい。ですから、技能実習制度では、受け入れ先も技能実習生も、双方が納得したところで働いてもらう職場環境を作ることは必須です。
一方で、外国人人材は、技能実習生や、他のビザの場合でもそうですが、日本に入国させるために受け入れ企業や関係機関が、いかに骨を折ってビザ申請したかという重みとコストをご存じでない場合が多いのです。来日して数か月で逃走されたら、一人の外国人人材を入国させるための骨折りに対して、損が多すぎます。
でも、入国までの手続きの手間が分からない外国人は、入国までの手続きをしてくれた受け入れ機関を簡単に裏切ることができます。私は、最初に入国させてくれた受け入れ機関を裏切る外国人を多数見てきました。
職場を辞める理由は様々で、「職場でいじめがあった」「寮の環境が悪かった」「技能実習生の仲間うちでけんかした」などなどですが、単に「仕事内容は問題ないが、四国より東京のほうがいい」などという軽々しい理由もあるのです。
こういう人材に対しては、技能実習制度の3年間もしくは5年間は転職ができない縛りが、かえって労使双方にとって有効に働いています。つまり転職できないという縛りがあったからこそ、当該人材の外国人は3年間の技能実習をまっとうできて、ある程度稼ぐことができ、技術も身に付くのです。
しかし、人材の引き留めのために技能実習期間は原則転職不可とするより、地方に入国する技能実習生にとって、地方にいることがインセンティブになる仕組みが必要だと感じています。地方自治体が行っている移住者への補助金や、地方での起業に対する優遇制度などに似た、地方に来た技能実習生に、地方で働くメリットがあると良いのではないでしょうか?
そもそも技能実習制度は問題が多すぎるため、 技能実習制度反対論者は
特定技能という技能実習に代わる制度があるじゃない? と仰る場合があります。
特定技能の制度設計では「人手不足解消」を目的とした外国人対象のビザであり、転職可能で、基本的には雇用主が責任をもって人材を管理するため、技能実習制度のように監理団体の人材管理料という毎月企業が負担するコストも下がることになります(登録支援機関に人材管理をお願いする場合は毎月の管理費は発生します)。
これもまた、机上では悪くない制度です。特定技能制度が出来てから、技能実習生の受け入れ企業は、人材に長く働いてもらうために環境整備など企業努力をする姿が見られたりして、特定技能制度の創設は一定の意味があったのではと感じます。
ですが、特定技能制度の特徴は、「時給の高い仕事に人材が集中する」ことです。
現状、東京、愛知、大阪などの大都市圏の特定技能職種は、まあまあ人が集まりますが、地方の特定技能職種は、時給が低いため、どうしても人材募集で苦戦しています。
現実問題として、特定技能制度は、技能実習制度の代わりではないのです。最賃格差がある限り、特定技能制度で日本全国の人手不足を解消することはできません。
もし特定技能制度で技能実習制度をすべて置き換えるとしたら、今時点では、人手不足倒産をする地方の企業が多く発生することになり、日本における人口集中地域と超過疎地域の差はますます激しくなります。その結果、地方の地価は下がりますし、労働人口の減少で高齢者が住み続けることができない地域が生じ、消滅する地方自治体が出てくるかもしれません。
全国で最低賃金格差がある限り、技能実習制度もしくは数年間は転職が難しい特定技能制度のようなものが必要、というのが日本社会のホンネです。
私の個人的な意見は、「技能実習制度そのものが悪」というより、技能実習制度を運用する人間の人権意識によって、悪にも善にもなるのが技能実習制度ではないか、というものです。
もし技能実習制度を廃止するのであれば、来日したての日本社会についてほとんど何も分からない外国人に対して、地方に住むインセンティブ制度を追加し、監理団体が現在実施している入国時研修などの手厚いケア制度も残して、1年更新の職種限定ビザが良いのでは、と思ったりします。
技能実習計画とは何なんだ?
よく「技能実習計画通りに技能実習生に実習させていなかった」ということが問題になります。技能実習制度は研修であり、ありていにいえば、研修科目をこなすことが大目的です。外国人受け入れ企業は、技能実習生が入国する前に外国人技能実習機構に提出した技能実習計画通り、3年間もしくは5年間、研修させる必要があります、という制度です。
でも実際、技能実習生は労働を行っており、労働内容は市場環境によって変動します。技能実習生の受け入れ先は営利企業がほとんどで、営利企業は時代のニーズにマッチした最先端・最新の商品を提供しなければ淘汰されます。当初予定していた「技能実習計画」通りのことができない企業があるのも当然と言えば当然でしょう。
しかし制度上は、「技能実習計画内容が変更したら、変更届を出さねばならない」ということで、仕事内容が変われば都度、技能実習計画の変更届を出すことになります。
日常の労働環境で、スタッフの業務が変更する場合、都度誰かのお伺いを立てなければならないということです。締め切りに追われる仕事、もしくは突発的に発生する仕事をしてきた私からするとクレージーな制度が技能実習生の運用では存在しています。
いやあ~、現場!! 現場が第一ですよ!!
現場のイノベーションを、日本の地方活性化を阻害しているとしか思えない制度です。
外国人技能実習生機構の監査で、技能実習計画が正確に履行されていなかったという指摘が入ったとの話をするときの中小企業経営者の方々の渋面を、皆様にお見せしたいです!!
「(外国人技能実習機構の監査は)もう、中小企業いじめとしか思えないんやわぁ~。機構(外国人技能実習機構)と労基(労働基準監督署)が突然会社に一緒に来て、技能実習計画通りに運用してないて。でも、どの作業した商品が今、一番売れてるかいう問題とちがいますか? うちはオーダーはたっぷりあるのに、技能実習計画通りにするとしたら、別の商品を作らな~」
これは、ある中小企業経営者の声です。
まとめ、幸せな日本社会のために
長時間労働や技能実習制度について長々と書いてきましたが、結論として、技能実習制度でないと人材を獲得できない企業が存在する地方を活性化できていない日本の最賃システムや、首都圏や都市部の活性化のみに集中してきた政治や行政の責任はまったくないのか? というのが最終的に問いたいことです。
何年も地方に通い続けて、実習生や外国人社員の実態を見ているから、切に問いたいのです!! 技能実習制度の運用の不備は、監理団体と受け入れ企業だけにあるわけではありません。
このまま日本人だけに頼って企業を経営するには限界がある地域で、日本人がどのように働いたら幸せか、同時に外国人がどのように働くのが幸せか、当事者の意見をと入れるべきです。技能実習制度を奴隷制度と批判する方で、実際に地方で技能実習制度の職種で働いたことのある方はいらっしゃいますか?
私は全国の中小企業の外国人と日本人が共に働く現場にしょっちゅう行きますけど、「この仕事をずっと続ける皆様にリスペクト。日本を支えるためにこの仕事をしていただいて本当に感謝しかない」っていう厳しい仕事はあるんです。技能実習制度が続くのであれば、厳しい仕事に就いていただいている技能実習生当事者の意見を聞いて、技能実習生が生活・労働がしやすい制度設計にすべきです。長時間労働に関しては、人権団体の言うことが、すべて技能実習生当事者の意見とは限りません。
もちろん、人権侵害的な行為については、人権団体が技能実習生の代弁をしても構いません。私は人権団体を否定していません。すべての当事者の意見をくみ上げた制度設計が求められていると申し上げているのです。
新型コロナウイルス拡大を経て、日本における移民問題の潮目が変わってきました。移民を「保護する対象」とし、「共に生きるためにどう政策を設計するか」という目線が強く社会で出てきたと感じます。
しかし移民が保護される対象だけでなく、力強く自分の意思で生きていきたい人間です。彼らの「1円でも多く稼ぎたい」というハングリー精神をつぶしてはいけません。前々から書いていますが、このハングリー精神が、日本社会のエンジンの一部になっているのですから。彼らとの交流が、働く意欲の少ない日本人へのカンフル剤になるのですから。
移民問題に関しては、もっともっと、知恵と経験を結集した対応が求められるでしょう。フランス国軍の外国人部隊の記事を読み、日本の自衛隊でいつか外国人部隊ができるだろうか? と夢想しました。いつか実現するかもしれません。移民・外国人の知恵を活かした日本社会づくりに、私も微力ながら、貢献し続けたいと思いつつ、今回は筆を置きます。
(2022年3月30日 桜満開の横浜で。みやま さえこ)
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