【一張羅】いっちょうら
自分の服で、一着しかない服、もっとも良い服のことを指して使う言い方ですが、服装自由勤務、在宅勤務、失われた30年等で「一張羅を新調する」といった感覚がここ数年失われているように感じています。
昨今はレンタルやサブスクリプションといった形で、何らかのセレモニーの時も衣装を買わないことも多く、今の20代の方からすると、20歳の時に家庭で絶対に振袖を買わなければならない、もしくは家庭に眠っている親、祖母の振袖を継承すると言う感性は持っていない方もいるかもしれません。私が20歳になった20●年前は、振袖レンタルの方が珍しかったです。価値観は変動しています。
またIT企業の役員らが決算報告会で黒いTシャツや白いTシャツで出てくることも多く、「そもそもスーツを着る意義は?」と言う感性が出てきた世の中です。
つまり、一張羅を新調することに価値をおかなくなってきた、もしくはそこにお金をかける余裕がなくなってきた日本社会だなと、感じています。しかし、現代日本においても、スーツを着なければいけない場面は存在していると思います。
スーツなんてネットショッピングやユニクロでいいじゃない、と思う方は、まだ40代を過ぎて微妙に体型が変形した自分にとって、ネットショッピングのスーツがいかに自分を醜く見せるかと言う経験がないわけです。若い頃はどんな洋服だって似合いますから。
で、シミやほうれい線が出てきて、20代より腕や腹や骨格に変化のある40代(私)は、一張羅を新調する必要が出てきて、スーツを買いに行きました。
私は普段からファッションセンスを磨くような行動をしていませんから、店員さんのいる店で、上から下まで全部コーディネートしてもらうのが基本です。年に数回しかファッションチェックをしない人間が、1年間300日位服のことを考えている、もしくは触ったりたたんだり管理したりしている洋服屋の店員さんの感性に勝てるわけはありません。
しかも、5日後にスーツが必要だ、といった緊急事態で買いに行きますから、あまり多数の商品の中から選ぶと言うのも難しいです。世の中には、今年の新商品が出たタイミングで買うお客様もいるそうですが、そんなファッショニスタになれるわけありません。
よく店員さんに言われるのは、仕事上NGの服はありますか?と言う質問です。洋服は仕事によってはかなり規制があるものだなと感じます。私は自営業だから、自分で服のルールは決めて良いのだけれど、お客様が保守的な場合や保守的な地域に住んでる人に対しては、保守的な服を着て商談したいから、今日はそれを選びに来たと、店員さんに言います。
スーツは、同じデザインでも色が違うと見え方がだいぶ違ったり、上着が合っていても下が微妙にしっくりしなかったり、今の自分に最適なものをあれこれ選んでいく必要があると思います。オーダーメイドにすれば、そんな心配は無いんでしょうが、なにせ緊急事態なので、オーダーメイドは間に合いません。
私の場合は、数年に1回スーツやジャケットを買う必要性が出てきますが、その時その時で流行も違うし、生地も違うし、自分の体型も違うし、こんな難しい服選びをネットでできるかというのが正直なところです。昭和生まれの人間からすると、サイズの表記すら変更されています。164とか64とかセンチで言えばいい、と洋服のタグを見て思ったりします。10数年前に着ていた普段着は身につけられますが、スーツは正直ぴったり来ません。
で、何とか夏の売れ残りセールの中からスーツを買ったわけです。買ってみて『10数年前より値上がりしている』ことを発見しました。インフレですから当たり前と思われるかもしれませんけど、給与水準がここ数十年上がっていない日本で、仕事で必要なスーツの値段が上がっているのです。スーツ縫製や販売までに様々なコストがかかっているのでしょうが、にしても、ますます一張羅を買う行為が万人のものではなくなってくるのかもしれません。
オンワード樫山の強気な価格帯……いつまで強気が貫けるのか、それとも1部の人が買うだけでいいのか、いろいろ考えさせられました。